第14講 中国企業や中国資本のM&Aや投資を恐れず、活用しよう
M&Aを正しく活用する時代
第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?
目次
今、日本のM&Aでは、中国企業や中国資本の存在感が大きく増している
中国企業や中国資本が、日本での不動産投資やM&Aでの投資を強めています。
最もそれが献茶にあらわれているのが不動産で、不動産価格が大きくあがっている原因が、中国資本の日本の不動産への投資の活発化です。
この中国マネーは、日本のM&A市場にも大きくあらわれています。投資側企業のリサーチを常に行っている僕のところに、積極的な投資意欲で、投資先の斡旋を申し入れてくる企業や投資家の中で、中国系がとても多くなりました。
一方で、売り側・投資側に、中国資本を紹介し、ネームクリアーを求めると、中国系であるというだけで、躊躇する売り側のオーナーが、日本では非常に多いのが現状です。
僕は、URVグローバルグループのオフィスを、中国上海・香港・台湾におき、多くの中国企業とも取引をするとともに、中国人経営者と個人的にお付き合いをしてきました。その中で、中国不動産の市況悪化や、共産党政権の政策を避けて、中国マネーが海外へと流出しています。
今、日本は1200兆円を超える多大な財政赤字をかかえており、金利があがることで、多大な金利が財務を圧迫します。そのため、日銀は、欧米各国の金利引き上げに同調できないという事情があります。経済界の圧力も、金利上昇を牽制します。そのため、日本が、インフレや景気過熱対策として金利を引き上げる政策を打つことは、今後もできにくいのです。
そうすると、欧米との間で金利が相対的に安くなり、日本から欧米にマネーが移動しますので、円安が進行しやすくなります。円安は、日本の輸出企業にとっても、メリットがあります。同時に、円安が進むことで、インバウンドや、外資の日本の投資が有利になります。
中国から流出するマネーが、日本への投資に向うのは、欧米に比較して、円安によって、日本が外貨ベースで、割安だからです。
M&Aにおいても、高齢化が進む日本の中小企業では、経営者の事情から、売り急ぎの傾向があり、割安で黒字企業を取得できるというメリットが中国企業を惹きつけています。
中国企業や中国資本は、本当に怖いのか?
一方で、日本の中小企業がM&Aを進める場合、相手が中国資本の企業であるということをお話すると、それだけで、非常に嫌がる経営者の方がおられます。
特に、成長企業M&Aのような投資を誘因する経営者の方はむしろ抵抗が少ないのですが、事業承継を検討する高齢の経営者の場合、それが顕著であるようにかんじます。
その心理は、おそらく、自分がここまで育ててきた会社や従業員が、中国人の手にわたること自体の抵抗感であるようです。
ただ、僕がM&Aや、その後のPMI(M&A後の買い手や売り手をサポートする業務)の中でみていくと、とりたてて、中国資本だから問題を引き起こすということはないようにかんじます。日本企業が投資する買収でも、非常に乱暴な企業はありますし、中国企業の場合、むしろ、日本人が中国に抵抗を示すことを知っているので、丁寧にM&A後の仕事を進める傾向が強いと僕は感じます。
むしろ、外資でいうと、欧米企業が日本で展開するM&Aや投資のほうが、M&A後に強引なことをする傾向が強いと思います。
日本企業だから安心、中国企業だから怖い、というのは、かなりの「主観的な思い込み」ではないかと思います。
日本企業だろうが、欧米企業だろうが、中国企業だろうが、相手をよくみて、買収先・投資先として適切かどうかを見極めることのほうが、大切だと僕は思います。
中国企業の取引上の特徴 ~優れた点、注意すべき点~
但し、中国企業には、日本企業や欧米企業にはない、取引上の顕著な特徴があります。
それを知っておくことは、中国系の投資を検討する場合、非常に重要だと思います。
投資収益率(ROIC)を極めて重視する
米国の投資会社がM&Aに臨む姿勢と同様に、中国企業は、非常に投資収益率にこだわります。それ自体、異常なことではなく、むしろ、投資家としては正常なことです。
日本の投資ファンドは、中期的に投資先企業が上場をすることを目論んで投資をし、上場によって、株式に乗る企業価値を市場価格にすることで、大きな利益を追求することになります。
したがって、日本の投資ファンドは、上場という目標を求めてきますが、ある程度、中期的な姿勢で投資をします。
一方、中国企業は、あまり上場にはこだわりません。その代わりに、短期的に、投資収益率による配当リターンを求めてきます。
したがって、中国企業に投資を受けることに向くのは、投資額が大きくても、収益化が早く、短期間に収益を株主に配当として還元することができる事業です。
一方、日本の中小企業は、このような配当性向の高い投資家との付き合い方があまり上手くありません。そのため、短期的な配当を求められると、裏切られたようなことを言います、
しかし、それは、株主がなぜ、投資をするのか、ということを忘れているのではないでしょうか。
慈善事業に資金を出すのであれば、だれも、株式会社に投資するなどという道を選ぶ必要はなく、慈善活動に寄付をするのであって、株式会社という営利企業に投資をするということは、収益性を追求するのは当たり前のことです。
ROICを重視してくるということは、収益性があると思えば、思い切った金額の投資に踏み込んでくることを意味します。したがって、中国企業の投資額は大きく、投資を受ける側からみれば、金融機関の融資のように与信の枠にこだわらない、思い切った金額を引き出すことができます。
資金支払いが非常に遅い
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一方、中国事業や中国人特有の気をつけなければならない点もあります。
それは、資金提供の約束や契約の意思決定は早いかわりに、現実の投資入金段階になると、入金を常に遅らせる傾向があるという点です。
投資に限らず、中国企業との取引では、支払い約束時に入金がされないのは、当たり前と思ったほうがよいでしょう。
中国企業や中国人投資家の経理部門というのは、「お金を支払うことを遅らせること」で評価を受けるという独特の慣習があります。
手付だけは支払いが早いのですが、決済の支払約束の日になっても、入金がなされず、問い合わせると、様々な口実をつかって、入金を遅らせる算段をするのが、中国企業や投資家の特徴です。
おカネがないわけではありませんが、入金に関する限り、約束を破ることが、中国企業では当たり前なのです。したがって、中国企業との取引や投資にあたっては、その入金を当てにして、別の支払いなどの予定を組んでしまうと、不当たりを出す結果になる可能性があります。
中国企業からの投資をうける際には、投資実行時点を早めに設定する、段階的に設定する、おカネ支払われない以上、こちらの準備も停止して、強い姿勢で入金を促すことが重要です。
中国企業との交渉から逃げない姿勢が大切
今、不動産投資だけでなく、M&Aにおいても、日本国内における台湾・香港・中国の企業や投資家の存在感は高まっています。
M&Aに精通し、適切な契約を段階的にかわすことで投資家から確実に資金の支払いを管理することができるM&Aの仲介業者をたてれば、中国の企業や投資家をそれほど恐れることはありません。
むしろ、意思決定や投資の額は、日本の投資企業よりも、迅速でまとまった投資を決定するのが、中国企業の特徴です。
中国企業や投資家だからというだけで、倦厭するのではなく、投資家の選択肢の一つとして、中国企業も、交渉の対象にしてみることを、お勧めします。
続く
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本稿の著者
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー
日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。