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特集「M&Aを正しく活用する時代」

第6講 会社の資金がショートしてから、慌てて調達に動くと大変なことになる!

「雨が降り出してからでは、誰も傘を貸さない」

僕は、もともと銀行系のシンクタンクの経営コンサルタントを出身しています。その銀行時代、銀行の悪口を言うヒトから、必ず言われる言葉がありました。

「銀行は、晴れているときには、傘を貸すと言ってくるけれど、
雨が降ったら、一切傘を貸してくれない。」

一方、僕がこの台詞に対する、銀行側の反論を代弁しますと、こうなります。

「事業の資金は、事業が好転しているときにしか、誰も貸し付けも出資もしてくれません。
資金が不足して、事業投資や運転ができなくならないように、資金を用立てるのが、銀行や投資家です。」

銀行は、預金者からおカネを預金として預かり、それを貸し付けて金利を稼いでいるビジネスです。もし、返済ができない人や企業に、おカネを貸せば、預金者に預金を戻せなくなってしまい、大変な事態を引き起こします。ですから、雨が降っている企業=資金がショートしてしまっている企業には、もう、おカネを貸さないのは、当然です。

銀行だけではありません。

成長企業M&Aや、資本提携の、資金提供者である投資家は、慈善事業をやっているのではありませんので、収益で費用を賄えない赤字が継続していて、運転資金がショートをはじめた企業に、投資をする企業は、非常に少ないのが現状です。

勿論、ベンチャー企業で、極めて優れた事業モデルを構築している最中であって、その事業モデルが、将来、爆発的な収益を生み出す可能性が高く、その投資がかさんで、赤字になっている、という事業であれば、投資企業はつきます。

しかしそうでなければ、資金がショートをした企業が、投資を受けることは、非常に困難です。

企業が、資金ショートをしてからでは、破産すらできなくなる

しかし、M&Aアドバイザリー事業をやっていると、「売り側」相談のかなりの数は、このような資金がショート状態に至ってしまった社長からの、ご相談です。

赤字が出始めていて、まだ資金や資産が豊富にある場合には、M&Aで売り抜けることができます。

しかし、既に事実上の破産状態にあるという場合には、僕たちM&Aアドバイザーではなく、弁護士さんに相談しなければなりません。

破産手続きを進めるだけの資金(企業の破産の場合、企業と個人の両方を同時に破産しなければなりませんので、弁護士さんの報酬で、約300万円かかります。それすらないと、破産もできません)が手元に残っているうちに、破産をし、再起を図ることを、僕はお勧めしています。

冷たいようですが、事実上の破産に至った企業に投資をする、「まともな投資家」は皆無です。それでもまだ、最後の資金で、会社と個人が破産することができ、免責を受けられれば、経営者は再び事業の再起を図ることが可能です。

しかし、破産をすることすらできないという状態に至ってしまうと、会社の債務は膨らみ続け、再起ができない状態に立ち至ってしまいます。さきほど、僕は、事実上の破産に至った企業に投資をする、「まともな投資家」は皆無と書きました。

これの裏をかえすと、事実上の破産に至った企業や個人によって来るのは、「まともでない怪しい闇の紳士たち」です。

次に、このような最悪な状態に至ってしまった企業を、食い物にする、怖いM&Aの買主に関するお話を書いて参ります。

ある相談事例 X社のA社長

ここに、僕が相談をお受けした(結局、仕事の受託をする状態でなく、お引受けはしませんでした)企業 X社の事例をご紹介したいと思います。

ある相談事例 X社のA社長 関係図

ある相談事例 X社のA社長 関係図

M&Aに至る経緯

このX社の代表取締役のA社長を、僕は、以前から、よく存じ上げていました。

このA社長は、20代で創業をされたベンチャー事業家でした。何ら後ろ盾もない状態から、御自身で起業をされ、非常にやり手である反面、お人よしのところがあり、そして、財務面に弱いという印象を、僕は受けていました。

企業に勤めるサラリーマンの場合、自分が強い分野の仕事で力を発揮し、昇進や昇給をすることができます。これは、所属する組織が大きく、人材が揃っているためです。

一方、中小企業の経営者というのは、自分が強い分野があっても、弱い分野から、会社が崩れてしまうのです。

労務やヒトを使うことに弱い社長は、組織や人事で会社を駄目にします。
技術が強くても営業が弱い経営者は、売上や利益から会社を駄目にします。
そして、財務や数字に弱い経営者は、財務や税務で会社を駄目にします。

このA社長の場合、財務が非常に弱く、加えてお人よしであったため、僕は、この社長は、財務やカネで、会社を崩すなあという予感を覚えていました。

そして、案の定、A社長は、周囲の調子のよいことを言ってくるヒトにのせられて、新しいことに思い付きで、無計画に手を出し、会社の費用を放漫に使う癖があり、X社の資金繰りは、いつも火の車でした。

僕は、何度も、A社長から、資金繰りの相談を受けていました。僕は、このA社長がX社の経営を継続していたのではX社はどこかで失速し、従業員が路頭に迷うだろうと思っていました。そこで、大企業に会社を譲って、A社長は創業者利益を手にしたほうがよいとアドバイスをするに至りました。

ただ、A社長は、なかなか自信家でもあり、自分で創業した会社への愛着も強い方でしたので、その時には、僕のアドバイスを聞かずに、自力での経営の道を選びました。

そんなことがあって、僕は、A社長にアドバイスをしたのを最後に、A社長と疎遠となりました。

M&Aの通知

さて、それから、数年が経過したある時のこと。

僕のもとに、X社から手紙が到着しました。内容は、A社長が代表取締役から退き、かわって、大阪にあるY不動産会社の社長(ここでは、B社長と記しておきます)が、代表取締役に着任したという通知でした。

明らかに、X社をM&Aで、A社長が売り抜けた、ということが推測できる内容でした。

僕は、むしろ、ほっとしました。

X社は、すでに資金的にも破綻したはずであり、様々なところへの債務も多重的な状態だったはずです。従って、このままA社長が経営をしていても、従業員への給与も近いうちに支払えなくなるでしょう。早いうちに、M&Aを決断し、Y不動産会社のように事業を債務とともに引き受けてくれる企業に売却し、その売却資金で、A社長がやり直せれば、それは、よかったのではないかと思ったわけです。

A社長の弟さん(元X社の取締役)からの面会申し入れ

それから、1年以上が経過しました。突然、僕のFacebookのお友達だった、A社長の弟さんが、Messengerで、僕に、面会のお願いをしてこられたのです。

僕は、弟さんとは、面識はありましたが、それほど、よく知っていたわけではありません。それまでも、2人でお会いしたことはありませんでした。

都内のカフェで、僕は、弟さんとお会いしました。
そこで、彼から出た相談事に、僕は、びっくりしてしまったのです。

彼の話は、次のような内容でした。

  • はじめ、Y不動産会社のB社長は、A社長が、資金繰りに困窮しているときに、A社長に、X社を自分が引き受けてもいい、という形で、近づいてきた
  • B社長は、X社の債務などを、Y社が引き受け、A社長が債務から解放されるということを提案し、A社長の保有するX社の株式を、A社長は無償で、100%、Y社に譲った。
  • そのうえで、A社長は、生活を維持するため、外注の形で、Y社と契約した。しかし、契約後、約1年で、この外注契約は、Y社から解除された。その後、A社長は、行方不明の状態になっている。一切の親族とも連絡をたち行方不明である。
  • X社は、A社長の在任中、A社長の両親から会社に約5,000万円、取締役となっていたA社長の弟さんから1,000万円を借入れていた。
  • 当初、B社長とA社長の間の話し合いでは、Y社が、会社の債務をすべて引き受けるとのことだったため、A社長は、無償で会社の株式をすべてY社に譲ったと、A社長は弟さんに説明をしていた。
  • そこで、両親と弟さんは、Y社と約1年、返済の協議を重ねるも、Y社から提案されてくる返済条件は、債務額を大幅に圧縮し、数十年の返済期間を設定するというものだった。
  • Y社およびB社長に返済の意思がなく、B社長が、X社を計画倒産させるつもりではないかと推察した弟さんは、Y社やB社長の連帯保証を付けることを要求するも、これを一切、Y社もB社長も受け付けない。
  • 債務は、約1年間、一円も返済されていない。

このような話を、弟さんは僕に相談をしてきたのでした。

M&Aの仲介の会社などは一切入っていません。したがって、本来、M&Aでかわすべき、基本合意契約書や株式譲渡契約書もかわされておらず、A社長は、20年以上、自分が作って来た会社を、投げ出すように、B社長に株式を無償で譲渡してしまったようです。

通常、無償で株式の譲渡をすれば、会社の現在価値相当額の有償譲渡と同様の法人税が課税されますが、おそらく、X社は、債務超過であったため、法人税の課税もなかったのではないかと、僕は推測します。

つまり、Y社とB社長は、債務の負担を引き受けて、0円で、X社を自分のものにしてしまったことになります。

そして、Y社は黒字の企業でしょうから、B社長は、X社の赤字を、Y社の黒字の法人税対策で利用したのではないかと思うと、弟さんに話しました。そして、X社の財産や営業上の取引先・のれんをすべて、Y社に移しとり、いらなくなったA社長を追放してしまったわけです。

おそらく、Y社はX社の取引先や、X社の資産でほしいものだけをY社に移し、計画倒産をさせるでしょうね、と、僕は、弟さんに話しました。そうなれば、X社の債務は、Y社やB社長が支払う必要はなくなります。X社は、債務超過であったため、銀行など、連帯保証が必要な債務がなかったため、Y社やB社長は、株主有限責任の原則通り、X社を倒産させて、免責を受けてしまえば、債務を負うことはありません。

会社の資金がショートして、自分が大きな返済義務をおったA社長は、その債務を免れ、Y社から給与を貰える道を、独りで選んだつもりだったのでしょう。しかし、Y社は、X社の引継ぎをうけてノウハウをA社長から吸収した後で、A社長は、放り出されてしまったわけです。

そして、本来、Y社とB社長が払うべき債務の返済を行わずにいます。これは、M&Aに無知で、借金から逃れたいと焦ったA社長を利用した、完全な「乗っ取り」です。

僕は、弟さんに弁護士を紹介し、早期に、ご両親と弟さんで、X社を訴えるように勧めました。このままだと、X社を倒産させ、債務は、回収が不可能となるでしょう。

先にかいた、事実上の破産に至った企業や個人によって来るのは、「まともでない怪しい闇の紳士たち」とは、B社長のような人のことです。

この事例から学ぶべきこと

この事例から、中小企業の経営者が学ぶべきことは、次のようなことです。

中小企業の社長は、自分の弱い部分から会社を壊す

まず、A社長の問題は、会社の資金に弱かったこと。

スタッフや組織がしっかり整っている大企業と異なり、中小企業では、従業員がどうしてもオーナー社長に追随しがちで、オーナー社長の弱い部分を組織が補ってくれません。

A社長は、会社の資金に弱く、それに強い部下や専門家の意見を採り入れた経営ができなかったため、会社を大きく傾けてしまいました。

経営は、資金がショートしたら、誰も助けてはくれない

「雨が降った時に銀行が傘を貸してくれない」のは、当たり前です。返済能力がない企業や社長に、資金を提供してくれるお人よしは、この世の中にはいません。資金がショートする前に、金融機関や、信頼できるM&Aのアドバイザリーの専門家に相談し、資金の調達を計画的に進めるのが経営者です。

資金がショートし、自分のアタマで正常な判断ができなくなったときに、現れるのは、B社長のような、自分の思惑をA社長の困窮に乗じて達成しようとする、「まともでない怪しい闇の紳士」、詐欺師まがいの人ばかりなのです。

M&Aには、ルールがあり、方法があります

M&Aは、経験や知識がない社長が、自分の勘でできるような、「生易しいもの」ではありません。

経験と知識を積んだ専門家が、仲介やアドバイリーに入り、両社に問題が起きないように、進めていくべきものです。A社長のように、資金がショートして、契約書も締結せずに、株を放り出してしまうなど、論外です。それによって、自分の両親や親族に、多大な迷惑がかかります。

A社長は、Y社とB社に、20年以上も自分の手で作って来た会社を無償で乗っ取られ、Y社に雇用されると思ってY社に提供したノウハウも持っていかれて、1年足らずで、クビにされてしまいました。そして、親族にアタマを下げて貸してもらった資金の返済はされず、結局、行方不明になってしまいました。

自業自得といえば、それまでですが、もっと早く信頼できるM&Aの専門家に相談をし、アドバイザリーを依頼していたなら、このようなことには、ならなかったでしょう。今、A社長の弟さんは、両親と相談し、X社・Y社・B社長を告訴する準備を、弁護士さんと進めています。

ご両親や弟さんのX社に貸したお金が、戻ってくることを、僕は祈っています。

続く

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本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。

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