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特集「M&Aを正しく活用する時代」

第10講 事業譲渡をする会社はここに気を付けよう ~そのメリットとデメリット~

M&Aで使用される方法は、主に2つ 株式譲渡と事業譲渡

M&Aの世界は、もともとがアメリカ発祥で、しかも公開会社がその主役でした。そのため、僕が10年ほど仕事をしていたアメリカのウォール街を舞台にしたM&Aは、敵対的買収といわれるTOBや、株主から経営者が独立して会社を買いとるマネジメントバイアウトなどの華やかでドラマチックな手法が主力でした。

一方、日本のM&Aは、公開会社同士のM&Aでも、このようなドラマチックな方法は、ほとんど採用されていません。

まして、一方当事者が非公開会社であるM&Aの場合、友好的M&Aと言われる方法が用いられます。

日本の中小企業が行うM&Aは、ほぼ以下の2つの手法のいずれかがとられます。

・株式譲渡
・事業譲渡

このうち、株式譲渡という手法は、オーナー経営者が持っている株式を買収側に売る、そして買収側で新しい社長を選任して、経営権を獲得するという方法で、とてもわかりやすいと思います。

売却側が、その後も経営を続ける、成長企業M&Aでは、株式譲渡の方法がとられます。

では、株式譲渡ではなく、事業譲渡を行うのは、どんな場合なのでしょうか?

このコンテンツでは、この事業譲渡を採用する理由や、メリット・デメリットについて、書いてまいりたいと思います。その中で、事業譲渡において、気をつけなければならない点を書いて参ります。

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株式譲渡の手法ではなく、事業譲渡を使う理由

ではまず初めに、なぜ株式譲渡を使わず、事業譲渡を使うのかを説明しながら、事業譲渡のメリットについて書いてまいります。

事業を選択して引き継ぐことが可能

株式譲渡は、その会社の株式を譲り受けるため、その会社ごと譲渡を受ける手法です。しかし、会社には複数の事業が入っていることが多く、買主が一部の事業だけ譲り受けたいという場合があります。

事業譲渡は、このような場合に、事業ごとに売り先の会社を変えたり、一部の事業を売却し、残りを売り主側に保留したりすることができます。

簿外債務を引き継ぐ恐れがない

M&Aで、最も買い側にリスクがあるのは、財務諸表に現れていない債務(簿外債務)が、買収後に発覚するという事態です。

中小企業には、長期間にわたる経営で、経営者が知り合いから金を借りて会社の経営に回したりしていたようなケースが多々あります。証文は残っているが、金融機関からの信用低下を恐れて、財務諸表に乗せていない、というケースがあります。

それを、M&Aの手続き時に、売り側の経営者がディスクローズすればよいのですが、中にはそれを隠して、売り抜ける売主もいます。M&Aの仲介会社も、担当者の経験不足で、それを見抜けないような場合も多々あります。

そうなると、M&A成立後のクロージング終了後に、それが発覚します。買い側としては、その簿外債務分が、買収金額の損失となります。売り側の社長が訴えられたり、仲介会社が訴えられたりします。

このような簿外債務を、事業承継の場合には、買主が引き継ぐことがありません。

したがって、僕も時々こういう案件に出会うのですが、長年、M&Aや経営コンサルティングに携わっている仲介の担当者が、「この会社は、どうも簿外債務がありそうな予感がする」という感じを受けると、事業譲渡案件に切り替えたりするのです(そして、このような感じは、大体僕の場合あたります)。

実は、M&Aにおける事業譲渡案件というのは、最初から売り側が事業譲渡を選択してくるわけではありません。

M&Aアドバイザーや仲介の担当者が、「これは事業譲渡にしたほうがよい」という方針を決め、あるいは、ベテランの買い側のM&A担当者が「株式譲渡では受けられないが、事業譲渡なら受けてもよい」という形で、売り側を説得して事業譲渡に変更するという形で、行われるのです。

事業譲渡、ここに気を付ける

一方で、事業譲渡の上記のような性格から、事業譲渡を受ける買い側企業は、気をつけなければならない点がいくつかあります。

事業譲渡案件は、株式譲渡では「売れない危ない企業」を売り抜ける手法

先ほど述べました通り、事業譲渡として売りに出ている会社は、ベテランのM&Aアドバイザーや仲介の担当者が、「これは事業譲渡にしたほうがよい」と判断して、事業譲渡案件とした案件です。

つまり、隠れた債務や、問題点が潜んでいそうな会社だとプロが判断し、自分の仲介責任を回避するため、その隠れた部分を買い側が引き継がないで済む事業譲渡案件とした可能性が高いのです。

もちろん、事業譲渡は、買い側が会社の債務などを引き継がないので、リスク回避にはなります。

しかし、このように、プロがリスクを回避するような売り会社というのは、元の経営者の経営に問題があります。コンプライアンス意識が低く、粉飾的なことを行う経営者です。

つまり、事業譲渡案件となる会社は、かなり「癖のある会社」なのです。

そうであるとすると、譲り受ける事業についても、相当に精査をする必要があります。

僕自身も、以前、M&A投資を行う企業グループで、買い側としてM&Aを担当していた時、何度か事業譲渡案件を検討したことがあり、買ったこともあります。

しかし、いずれも、相当に癖のある経営者が経営していた企業で、様々な問題点が出てきて、すべての案件で株式譲渡案件よりも大変でした。

買った案件も、買収後、かなり大変でした。

買収側は、譲渡対象資産引継ぎを、個別に行わなければならない

なぜ、事業譲渡は、株式譲渡に比べて大変なのでしょうか?

株式というのは、会社それ自体の支配権であり、株式自体に、会社の純資産価値が株式単位に分割されてのっています。ですから、株式を譲りうけ、会社の備える株主名簿が書き換えられると、会社を株式単位に比例して、そのまま支配して共有することができます。

一方、事業譲渡は、事業という抽象的なものの譲渡を受けるのですが、その事業を支配するまとまった株式のようなものは法的に存在しません。

したがって、事業譲渡は、その事業を構成するモノや債権を、すべて個々に譲渡を受ける方法によります。そのため、債務引き受けもしないで済むのです。

したがって、事業譲渡を受けるためには、事業を構成するすべてのモノや債権、そして、個別の従業員との雇用関係を、個々にリストアップし、それに価格をつけて、譲渡を受ける必要があります。つまり、膨大な売買契約や債権譲渡契約を、同時に実行するというのが、事業譲渡手続きなのです。

したがって、相当に手続きが大変です。仲介をする事業者の担当者にも、相当な力量と法的な知識が必要となります。

したがって、この譲渡対象から重要なものを落としてしまうと、事業の遂行に、後々、大きな問題がおきてしまうのです。

これが、事業譲渡の最も難しい点です。事業譲渡を行う場合、特に買い側企業は、経験が豊富で、事業譲渡を経験している、仲介業者やアドバイザリー業者を選定する必要があります。特に、仲介業者をいれる場合、仲介業者は、成功報酬の入金を急ぐ傾向が強く、事業譲渡の煩雑な対象物のリスト化の業務をはしょる傾向があり、十分気を付けてください。

もし、事業譲渡案件で仲介業者に不安がある場合、自社側で、仲介業者ではなく、アドバイザリー業者をいれて、業務を進めることをお勧めします。

買い主が上場企業の場合、事業譲渡は使えない

全部の事業譲受は、取締役会設置会社でも、株主総会決議事項となります(会社法467条1項1号)。そのため、上場会社の株主総会決議事項は、広く株主に知られることになるため、それ自体が機密保持義務違反となります。

したがって事業譲渡は、よほどの特別な場合でなければ、上場している公開会社では、行うことができません。

雇用承継や不動産賃貸など、本当に引き継げるのかを、見定める

そして、事業譲渡を行う上で、買収側にとって、最も重要な点。それは、そもそも売り側が言うように、本当に雇用関係や不動産賃貸借契約など、個々の権利を引き継げるのか、という点です。

M&Aは、株式譲渡も、事業譲渡も、クロージングまで、売り側の従業員や、債権者にはその情報が秘匿されます。そのため、買い側からみると、売り側企業の従業員や債権者と話をすることができません。

その中で、クロージングにより、買い側は売り側企業に対して、事業譲渡金額を支払い、譲渡を受けなければなりません。

例えば、売り側企業と従業員との間に、大きな信頼関係の破綻があり、多くの従業員が一斉退職をする動きがあるとか、賃借物件について、貸主側に自己使用理由や別途開発などの事由で、契約が解約されるような事態が隠れていた場合、事業譲渡自体が成立しなくなってしまいます。

譲渡後に、このような状況が発覚し、売り側企業と法的紛争になれば、相当な弁護士費用がかかり、事業譲渡で出資した資金が、長期的に回収できなくなってしまいます。

あえて、手続きが困難で、対象会社も絞られる事業譲渡を選択するのか、買収会社は、よく情報を収集する必要がある

事業譲渡は、株式譲渡に比較して、買収先の対象企業も絞られ、しかも、手続きは煩雑で仲介する業者には相当な経験と技術が必要となり、売り企業側も後で、買い企業側から、法的な責任を追及される可能性が高い手法です。

売り側企業のオーナー経営者は、もし仲介会社から事業譲渡を提案された場合、慎重に検討をされたほうがよいでしょう。最近は、不動産事業者がM&A仲介に参入し、不動産売買の仲介感覚で、債務超過した会社の事業を会社と切り離す形で、事業譲渡で売却を勧め、仲介料を稼ぐ業者も、M&A業界に多くなりました。

それ自体は、悪いことではありませんが、本当にそのレベルの経験で、複雑な事業譲渡の手続きをやり切れるのかを、売り側企業はよく検討をすべきです。

買い側企業の買収担当者は、事業譲渡案件になるのは、相当に癖の強い企業だと認識し、しっかりと評価をしたほうがよいでしょう。

続く

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本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。

「M&Aを正しく活用する時代」過去の記事はこちら

第1講 世界のM&Aを知ろう

第2講 今、うちの会社はいくらなの?~企業のバリュエーション~

第3講 株主が複数いる企業が行う、M&Aへの対策 ~スクイズアウト~

第4講 M&A買い側企業担当者の心得

第5講 株式譲渡と事業譲渡、その戦略的な活用法

第6講 会社の資金がショートしてから、慌てて調達に動くと大変なことになる!

第7講 M&Aでは、何故PL上の利益よりも、EBITDAを重視するのか?

第8講 黒字が出ている会社のオーナー社長が、M&Aで金持ちになるのは何故か? ~本当の金持ちになるヒトは、所得税の構造に潜む、カラクリを利用している~

第9講 M&Aの世界は、なぜあらゆるところが秘密のベールに包まれているのか?

第10講 事業譲渡をする会社はここに気を付けよう ~そのメリットとデメリット~

第11講 M&Aを考えるすべてのヒトが知らなければならない天王山 デューデリジェンス

第12講 M&Aで会社を売る場合、セカンドオピニオンを求めよう

第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?

第14講 中国企業や中国資本のM&Aや投資を恐れず、活用しよう

第15講 事業承継や資金調達で、M&Aを使う場合は、政府の登録機関に相談しよう

第16講 日本で増加してきた「同意なき買収」 米国に近づいてきたM&Aの今を概観する

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