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特集「M&Aを正しく活用する時代」

第17講 M&Aの本当の主戦場は、PMIにある

PMI

PMIとは何か?

M&Aの世界で、PMIという言葉が使われます。

PMIとは、買収側企業が、買収後、買収した企業の経営をいかに行うかという戦略を言います。

M&Aに長けて、成功する企業は、いずれも、PMIに成功した企業です。M&Aは、買収企業の、買収時点の財務的な純資産価値に、買収時の経営者が将来獲得できる収益を一定期間分、ディスカウントキャッシュフロー法などの技術を使って先倒しをして計算した価値を加算した金額で、買収企業を買います。

そうすると、買収された会社の元経営陣が主張するのと同じレベルの収益を獲得したのでは、買収企業の価値にプレミアムを付けることはできません。

買収企業の資金力や与信、シナジー効果を使って、買収された会社の元経営陣以上の企業価値を実現することで、はじめてM&Aは成功するのです。

しかし、これは非常に至難の業なのです。

買収された会社の元経営陣は、業界のプロですし、買収された会社の従業員を入社させて育ててきた実績があるマネジメントなのです。そこに、買収企業は、「よそ者」として入ってゆかねばなりません。

そして、買収元の企業から資本を注入し、買収された会社の元経営陣が全く想定できなかった経営を実現し、企業価値を出してゆくのが、「M&Aの成功」なのです。

実際、日本のM&Aを実行した買収側で、その後数年後に、M&Aが成功だったと回答する企業は全体の3割程度です。M&Aでは、PMIがまさに最も重要なのです。

グループ内の売上規模の底上げや、上場のための企業規模の底上げだけに目をとられて、買収後の経営を買収された会社の元経営陣に依存したりしても、決してM&Aを成功させることはできないのです。

買収側事業会社の内情を明かす ~買収の裏側で、役員会ではPMIの暗闘が繰り広げられる~

僕は、2017年3月に株式会社URVプランニングサポーターズの代表取締役として独立するまで、ある大手事業会社のM&A買収部門の責任者の役員として活動していました。

そこで、M&Aの仲介会社さんから、様々な売り手企業の情報をいただき、分析をし、売り手企業のオーナー社長さんとお会いし、交渉を続ける仕事をしていました。

そして、多くの同じような買収側企業の責任者の方々とも交流し、情報を交換する活動をしてきました。

買収側が事業会社である場合、その役員会での最大の論点というのは、ずばり、買収後の経営者として誰を送り込み、どのように買った企業を経営して、企業価値をあげるかということです。

買収企業の価格が高いか、安いかということは、単にバリュエーションの上の計算から導かれることではなく、その価格以上の企業価値を、自社が買収して出すことができるか、という、非常に泥臭い問題なのです。

誰がこの会社に行くか?

この議論で、最もそのターゲットになりやすいのは、ずばり、M&A担当責任者です。

「お前がいいと言ってきた企業なんだから、お前が責任者をやれ」、という結論が最も導かれやすいのです。

M&Aを題材にした経済小説では、買収側で買収に尽力した担当責任者が、売り側企業の経営者として入る、という設定が、ハッピーエンドで描かれていることが多いわけです。

しかし、実際、M&Aにおける買収の成功というのは、ハッピーエンドではなくて、そこからが、最も長く苦しいPMIのスタートでもあります。

僕は、もともと、独立をすることを心に秘めて、前職の役員を務めていましたから、最も注意したのは、M&Aの成功によって、買収企業に「雇われ社長」として送り込まれることでした。

売り企業というのは、業界に精通したオーナー社長が経営し、そのオーナー社長に仕えてきた幹部が事業をマネジメントしている企業です。そこに、業界のことも知らず、単に、数字だけに詳しい机上の空論だけで経営を考えている買収側のM&A担当社員が、株主の意向を背に入っていって、簡単に成功をするものではありません。

僕のような自分が独立することを前提に大企業に勤めるサラリーマンが、簡単に成功できるものではありません。僕は、それをよくわかっていましたので、そのような状態に自ら陥ることを、避け続けてきました。

M&Aを成功させるということと、売り企業の経営者として成功することは、全く異なることなのです。

仲介やアドバイザリーやっても、PMIからは逃げだす会社が殆ど

ここからは、買い手企業の内部におけるPMI、言い換えれば、買収先企業の経営者として誰が行くか、という人選問題について書いて参ります。

これば、単に、買い手となる企業に関係することではありません。これからM&Aを考えている売り手側のオーナー経営者の方も、買い手側の事情を知っておく必要がある話なのです。

買い手側企業というのは、例外なく、M&Aをするだけの資金的な余力を持った企業です。資金的な余力があるということは、本業をはじめとする既存事業で利益を積み上げ、銀行からの与信も厚い企業で、組織も充実しています。

したがって、そこには、経営管理者の立場に立つ管理職がたくさんいます。しかし、彼らは、実績を持つヒトほど、買収企業の経営者になりたがりません。

自分が育てた部下が自分の指揮で働き、実績をあげている今の立場を離れて、全くの外様として、「買われた人たち」を指揮して、実績があがると思うほうが、ヒトが良すぎるわけです。

したがって、下からあがってきて、実績を積み上げてきた、実力ある経営管理者ほど、買収先の経営者になるという「火中の栗」を拾いたがりません。

これは、どこの買い手企業でも同じです。

新規事業や、M&A先の責任者というのは、まさに、海のものともヤマのものともわからない領域の「新領地」をゼロから耕して国づくりをする覚悟がいります。失敗する確率は非常に高く、失敗率が成功率を大きく上回るのが、PMIなのです。

そのため、外部から会社に入ってきたM&Aの担当責任者や、新規事業担当者が、この「火中の栗」を拾う役につかされる可能性が高いわけです。

言葉をかえせば、
「お前は、うちの会社の中で実績がないのだから、自ら火中に飛び込んで栗を拾ってこい」
と役割を背負わされるわけです。

もちろん、そこに成功をすれば大きなチャンスがある領域であることも事実です。

しかし、買収会社には、M&Aでは明らかになっていない暗部が隠れていることは、普通です。弁護士や、会計士に高い費用を払うデューデリジェンスをしても、それが洗い出されているとは限りません。また、買収側の経営陣が、買収後、資金を想定したように投資し続けてくれる保証もありません。

買収会社の経営者になった後で、株主である出身企業から資金を突然絶たれるというケースは、非常によくあるパターンです。

そのようなリスクある立場に、「片道切符」で行くのが、PMIの実情なのです。

あえて、「火中の栗」を拾う、URVプランニングサポーターズ

僕自身、前職時代には、独立の足かせになることを避けるため、PMIで買収会社の代表として火中の栗を拾うことを避けつづけてきました。しかし、今、本来、経営コンサルタントであり、事業家でもある僕は、今、株式会社URVプランニングサポーターズの業務として、PMIを積極的に引受け、買収企業内のマネジメントの方々が拾うのを避ける火中の栗を積極的に拾いに行くことにしています。

M&Aの仲介やアドバイザリーをしている事業者の仲間からは、
「松本さん、よくやりますね」
と冷やかされることもありますが、M&Aを生業にして、クライアントに成功を目指すお手伝いをする以上、PMIを一緒に引受けるのでなければ、中途半端な仕事になると、僕は思っています。

今でも、ある上場企業をTOBで買収した企業の案件で、M&AをさせていただいたPMI業務を引受け、買収企業の責任者の方と一緒に、僕は、汗をかいています。

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本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。

「M&Aを正しく活用する時代」過去の記事はこちら

第1講 世界のM&Aを知ろう

第2講 今、うちの会社はいくらなの?~企業のバリュエーション~

第3講 株主が複数いる企業が行う、M&Aへの対策 ~スクイズアウト~

第4講 M&A買い側企業担当者の心得

第5講 株式譲渡と事業譲渡、その戦略的な活用法

第6講 会社の資金がショートしてから、慌てて調達に動くと大変なことになる!

第7講 M&Aでは、何故PL上の利益よりも、EBITDAを重視するのか?

第8講 黒字が出ている会社のオーナー社長が、M&Aで金持ちになるのは何故か? ~本当の金持ちになるヒトは、所得税の構造に潜む、カラクリを利用している~

第9講 M&Aの世界は、なぜあらゆるところが秘密のベールに包まれているのか?

第10講 事業譲渡をする会社はここに気を付けよう ~そのメリットとデメリット~

第11講 M&Aを考えるすべてのヒトが知らなければならない天王山 デューデリジェンス

第12講 M&Aで会社を売る場合、セカンドオピニオンを求めよう

第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?

第14講 中国企業や中国資本のM&Aや投資を恐れず、活用しよう

第15講 事業承継や資金調達で、M&Aを使う場合は、政府の登録機関に相談しよう

第16講 日本で増加してきた「同意なき買収」 米国に近づいてきたM&Aの今を概観する

第第17講 M&Aの本当の主戦場は、PMIにある

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