銀座を代表するオートクチュール企業を承継する若き女性社長が挑む、「お受験スタイル」というマーケット
《 企業紹介 》
株式会社コージアトリエ・プリュス
創業1972年。銀座紳士服のビスポークテーラー「壹番館」創業者である渡辺實氏の、長男渡辺弘二氏が創業した、婦人服の名門オートクチュール企業、株式会社コージアトリエ。
パリオートクチュール「GIVENCHY」のテクニックを持つジャンポール・デュナン氏と、渡辺弘二社長が、壹番館の服造りの魂を婦人服に投入し、「コージアトリエ」は誕生した。
2017年。創業45周年を迎えたコージアトリエは、弘二社長の長女である渡辺陽子氏を、代表取締役副社長に抜擢。
そして、2019年1月。渡辺陽子氏がコージアトリエのデザイナーとして創業したブランド「マザースタイル」を更に飛躍させる企業として、株式会社コージアトリエ・プリュスが誕生した。
パリの社交界を舞台に、英国王室・日本の皇室、そして世界のVIPの貴婦人の御用をお請けしてきた、正統派のオートクチュールブランドが、新時代のデザインへの挑戦を開始した。
伝統を受け継ぎつつも、それを乗り越え、新たな時代のVIPのニーズに挑戦する、若き女性社長 渡辺陽子氏に、インタビューをするため、銀座六丁目にある株式会社コージアトリエの本店に訪問した。
壹番館の入るビルと並ぶ、コージアトリエの入るビル。銀座の中心地であるここが、壹番館の魂の原点でもある。
■対談
渡辺陽子社長インタビュー
松本:本日は、株式会社コージアトリエの新しい企業 コージアトリエ・プリュスの、渡辺陽子社長にお時間をいただき、お話をお伺いいたします。ご多忙のところ、ありがとうございます。
オートクチュールの経営環境
松本:さて、今、コージアトリエのお店の入るビルの7階で、インタビューをさせていただいております。
アパレルが、洋服販売の世界の基本になった今では、オートクチュールの、ゆったりとした空中店舗で、洋服を採寸しながら作られるという経験をされたことがない方も、多くなりましたね。
渡辺社長:そうですね。特に若い方には、オートクチュールは、馴染みが薄いかもしれません。事実、銀座でも、既に、正統な婦人服のオートクチュールは、コージアトリエしか残っておりません。
コージアトリエも、父の時代には、パリのルーヴル宮殿でコレクションを盛大に開催しておりましたが、今では、一着数百万円という、オートクチュールのフルオーダーの服は、特別な方しかお買い上げになりません。
ですので、今のコージアトリエの事業の主力商品は、ハーフオーダー形式の「スティル」ブランドのものに移っております。
松本:そうすると、逆に世界のブランドと競合になりますよね。
渡辺社長:そうです。オートクチュールは、すべての商品がオンリー・ワンですので、競合という概念がありませんでした。ある意味、ブルーオーシャンのマーケットです。
一方、ハーフオーダーの商品は、非常に激しい競争に晒されます。そして、その主戦場は、百貨店をはじめとする本店外の店舗になります。そのため、コージアトリエも積極的に本店外での販売に打って出ております。
松本:しかし、まさに、その主戦場である百貨店も、業績が非常に厳しい時代に入りましね。
百貨店という業態が、非常に緊張感を要する経営を強いられているわけですね。
渡辺社長:その通りです。
私も、コージアトリエに入社する前には、百貨店に勤めておりました。当時から比較すると、本当に、百貨店のバイヤーの皆さんも、差別化できる商品の開発に真剣になっておられます。
「マザースタイル」ブランド誕生物語
松本:ちなみに、差別化という観点で、今、有名百貨店から強い注目を集めているのが、渡辺社長が創業された株式会社コージアトリエ・プリュスの「マザースタイル」です。
マザースタイルは、お子さんの幼稚園や小学校「お受験」の婦人服に特化したブランドです。
ブランド戦略という観点から観ると、着用する用途を明確にし(ポジショニング)、着用される顧客のターゲットと商品を利用する状況を絞り込み(ターゲティング)、そこに集中したブランディングを行うことは、強力なブランド造りに必須です。
その意味で、とてもすぐれた市場細分化戦略に立脚されたマーケティングを展開されていると思います。
渡辺社長:本当ですか?
松本先生に、そう、おっしゃっていただくと、とってもかっこいいのですが、マザースタイルは、実は、私の実体験から生まれたブランドなのです。
松本:渡辺社長のお二人のお嬢様の「お受験」を、お母様として体験された上での商品開発、ということですね?
渡辺社長:そうです。
松本:渡辺家は、とても優秀な御家系ですよね。
お父様である弘二社長、お母様、ご兄弟、そして陽子社長。ご家族すべて慶應大学ご卒業でいらっしゃいます。
陽子社長は、幼稚舎から一貫して慶應ですね。
それで、陽子社長のお嬢様お二人も、私学小学校へ合格されておられます。
渡辺社長:はい。
名門幼稚園・小学校の受験の合格の秘訣には、中学校以上の学校と違うファクターがあります。
幼稚園・小学校では、受験するお子様が評価されるのは当然ですが、同時に、ご家庭も評価の対象とされます。
公立の学校が、いじめや教育の質など、様々な問題を抱える中で、経済的に余裕があり、見識の高い親は、子供をよい環境で教育をする必要性を痛感しています。そのため、名門の私立の学校は、学校の教育環境を守るため、子供とともに、教育する親も評価の対象としています。
親の収入の安定状況・家庭環境・親の見識など、総合的に評価対象となります。
従って、幼稚園や小学校受験予備校では、子供の受験対策とともに、親への指導にも力を入れられています。特に、子供に影響を与えるお母様が、とりわけ強い評価の対象となります。
「マザースタイル」は、私の子供の受験体験を通して培った、「学校が求める理想的な母親」を容姿面で実現するノウハウを、ふんだんに盛り込んだ服装です。
松本:ちなみに、「学校が求める理想的な母親」というのは、例えば、「紺の地味な服」で、皆さんが着ているのと同じような服を単に着ればよい、というものではないのでしょう?
渡辺社長:それは、絶対に違いますね。
大卒の就職活動のように、すべての女の子が同じ紺を着るべき、というのとは、全く違うのです。
学校は、「ご家庭の色」を見てきます。ですから、お子さんとお母様の個性と、自然にマッチし、程よく個性を演出する装いというのがベストです。
そのためには、私は、受験される学校毎の視点を把握し、一方でお子さんとお母様を拝見しながら、そのお母様にあった、オンリー・ワンの服装をご提案しております。
松本:なるほど。
そこに、長年培ってきた、オートクチュールの技が生きるわけですね。
渡辺社長:そうです。毎年、お受験をお子様とご一緒に経験されるお母様に寄り添い、服をお作りします。その合格された方から、合格の嬉しいお知らせをいただき、「陽子さんに創っていただいて本当によかった」と言っていただきます。
その時が、私は、一番幸せです。
「マザー」発、新たなコージアトリエの挑戦
松本:さて、数年前に、陽子社長は、お父様の株式会社コージアトリエとは別に、株式会社コージアトリエ・プリュスを創業され、代表取締役にご就任されました。
マザースタイルは、その中核商品ブランドだと思いますが、今後の事業発展のベクトルについての戦略をお教えいただけますか。
渡辺社長:はい。マザーは、「お受験」という女性の生活の中の、「一つのステージ」の商品を追求しています。
一方、女性の生活には、様々な別のステージもあります。就職してOLとなり、恋愛し、結婚する。妊娠して、出産し、子供を教育する。そして、子供が成長してきて、手が離れたら、また、女性として、若い時とは違ったおしゃれを楽しむ・・・。更に、社会的に成功して、今後は、企業のトップとして活躍する女性も増えてくるでしょう。
こんな、女性の生きる様々なステージの中で、そのヒトらしく、個性を演出する服を総合的にコーディネイトするのが、私の目指す、今後のコージアトリエ・プリュスの商品戦略です。
松本:なるほど。
新時代の、オートクチュールの姿ですね。
是非、これから、新会社の発展にご尽力ください。期待しております。ありがとうございました。
渡辺社長:こちらこそ、ありがとうございました。
インタビューを終えて
~経営コンサルタントの視点~
個性を演出するオンリー・ワン生産への挑戦
新型コロナ禍で、アパレル業界は、益々厳しい状態に陥っている。外出の機会が少なくなり、「装い」というものが、消費者にとって必須ではなくなった。
そうなると、アパレル業界を悩ませてきた過剰在庫問題は、更に深刻化するだろう。もう、後戻りができないニューノーマルの中で、装いに意味が持たせられない企業やブランドは、ひたすら過剰在庫の山に悩まされ、淘汰されていくに違いない。
過剰在庫との闘いが激化しよう。
ここに、ドイツを中心に世界に発信されつつある、インダストリー4.0が目指す、AIテクノロジーによる個別生産を高い効率で実現する製造業の未来の姿が重なる。
アパレル業界の未来の戦国絵巻が描かれることになろう。
すべての生産が、効率的なAIによる自動生産に移行するのは、SFの世界ではなく、すぐそこにある近未来の工場の姿だ。
その時、メーカーの生き残りの道は、二つに分かれよう。
一つは、圧倒的な資本力を背景に、受注発注型のAI生産に乗り換え、極めて高い生産効率で、個別生産品の価格を破壊するデストロイヤーとなる道。
もう一つは、AIにはできない、ヒトのセンスと提案力を最大限に活用した、オンリー・ワンのコンサルティング販売ビジネスへの道。
おそらく、この二つの狭間の中途半端なビジネスモデルは淘汰される運命にあるに違いない。
コージアトリエは、アパレル業界が発展する戦後の歴史の荒波の中、銀座という高級な市場で、唯一生き残ったオートクチュール企業だ。
この一旦縮小したオートクチュールという市場が、今、AIの反作用によって、再び脚光を浴びるのではないか、と私は感じる。
勿論、それは、パリでコレクションを行った、社交界向けのオートクチュールではない。
顧客の生活シーンの潜在的ニーズを見極める、提案型コンサルティング・オートクチュールだ。
壹番館から数えると、三代目にあたる渡辺陽子社長は、今、これから、顧客の個性の演出を支援するオンリー・ワン生産という、「新しいオートクチュール」に挑戦をしてゆくのだろうと、私は、解釈している。
銀座のよき日本の文明開化の象徴を、新たなデザインで、渡辺陽子社長に、演出していただきたいと私は想うのである。
COMPANY INFORMATION
株式会社コージアトリエ・プリュス
〒104-0061
東京都中央区銀座6-5-1-7F
https://www.koji-atelier.co.jp/postcompany/company
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株式会社コージアトリエ・プリュス様 経営支援事業 実績紹介
父親が創業し、経営してきた、銀座の正当派オートクチュールのブランドの、事業承継に成功。
ブランドを守りながら、新しいマーケットを別会社で立ち上げるご支援をいただきました。