肉を食の中心テーマとして、渋谷を本拠地に、沖縄国際通りの一等地に出店を広げる、株式会社アットジーセンスエンターテインメント。新型コロナ禍でも組織体制を強化し続ける「強き飲食企業」を率いる若き経営者を、インタビューで直撃する
《 ヒトと企業紹介 》
株式会社アットジーセンスエンターテインメント
代表取締役
森田 恭平 氏
URVグローバルグループ最高経営責任者 松本尚典 よりご紹介
このインタビューの実施は、2021年2月。まさに、新型コロナウイルス禍がはじまって、1年が経過した、第三波の真最中の時期だ。東京をはじめ大都市の飲食業が、営業自粛を強いられているタイミング。
この飲食業界に襲い掛かった大きな試練に立ち向かい、その先を見据えて戦略をたてる、若き事業家の話を、僕は、聞きたかった。
創業から10年。東京渋谷と、沖縄那覇の国際通りに、肉を食の中心テーマとする4店舗を出店し、4店舗で年商3億円という、かなり驚異的な売り上げをあげる企業、株式会社アットジーセンスエンターテインメント。新型コロナ禍で、休業を強いられながらも、強い財務体制と資金力で、従業員の雇用を守りぬき、かつ、次の戦略に備えて、「今こそ従業員教育の絶好の機会」と位置付ける、「強き飲食企業集団」だ。
起業と廃業が、ともに高率を示し、財務基盤が最も薄い企業が集まる、飲食業界。その、飲食業界にあって、強い基盤の道筋と、次を見据える戦略をお伺いするため、渋谷円山町にある、同社経営の焼肉店 焼肉黒田に、森田恭平社長をお尋ねした。
■対談
森田 恭平社長インタビュー
松本:本日は、株式会社アットジーセンスエンターテインメントの森田社長のインタビューで、渋谷区円山町にある、焼肉黒田に伺っております。
お忙しいスケジュールのなかで、お時間をいただき、ありがとうございます。
森田社長:いえいえ。こちらのほうこそ、お越しいただき、ありがとうございます。
開業までの経緯
松本: 森田社長は、盟友である黒石幸治副社長と共に、アットジーセンスエンターテインメント社をゼロから設立され、数年で、年商3億円を超える飲食企業に成長させられましたよね。
まずは、設立までの経緯をお教えいただけますか?
森田社長:はい。設立前は、渋谷109の中に、「SBY」というタピオカやクレープ中心の店に立ち上げから携わり、キッチンを統括させて頂いておりました。
松本:109の中のクレープやタピオカということは、若い女性がターゲットの店ですね。
森田社長:そうです。その店の営業を通して、仲間と飲食の仕事をする楽しさに目覚めまして。それで、黒石と共同出資で、今の会社を設立し、やきとり業態からスタートしました。
松本:そこから肉に入って行かれたのですね。
渋谷と沖縄の出店拡大
森田社長:渋谷の宇田川町に、「しゃぶしゃぶ黒田(旧店名「和達」)」。そして、円山町に「焼肉黒田」をオープンし、沖縄に進出をしました。
松本:御社は、東京の渋谷と、沖縄那覇の国際通りに、集中して出店をされていますね。
渋谷は、109時代からの森田社長のホームグラウンドということだと思いますが、沖縄に出店をされたきっかけは、何だったのでしょうか?
森田社長:ある知り合いの方に、沖縄の国際通りの視察にご案内いただいたのです。
国際通りは、いわば、沖縄那覇の中心街として、観光客で当時、溢れかえっていました。
渋谷は、私たちのホームグラウンドですが、やはりイニシャルとランニングのコストが高く、競合も凄まじいわけです。いい店を出すのも、なかなか物件的にも難しいんです。
この点、沖縄の国際通りは、当時、まだ、非常にいい立地の店が、割安で手に入りました。
ここだ! と思い、即決で、第一号の店の出店を決めたのです。そこから、国際通りで、店舗を拡大して参りました。
松本:沖縄の国際通りの店舗は、顧客の構成は、大体、どのようになっていますか?
森田社長:観光客が60%、インバウンドの外国人の方が10%、そして地元の方が30%です。
松本:沖縄は、我々、本土の資本、沖縄の言葉で言う「ないちゃー」は、沖縄の現地の客層、つまり「うちなんちゅう」をつかむのは、大変ではなかったですか?
特に、国際通りというところは、30%の「うちなんちゅう」の客層が一番掴みにくかったのではないでしょうか?
森田社長:はい、最初は、かなり苦労しました。でも、現場の社員やスタッフがチームとなって、地元の方とコミュニケーションを根気よくとってくれました。一度、仲良くなってしまうと、沖縄の方々は、非常に、よいお客様になってくださいます。
お陰で、コロナ禍の中で、観光客が激減し、インバウンドが壊滅しても、地元のファンの方に支えられて、営業を継続することができました。
飲食業にとって、最も重要な経営資源は、ヒトだ
松本:森田社長は、アットジーセンスを設立された際、「仲間と飲食をやる楽しさ」に目覚めて、スタートされたと言われておられましたね。そして、沖縄の店舗の成功もまた、現場の社員やスタッフの方のチームワークが成功の重要な要因ということですね。
森田社長は、ヒトを重視し、御社はヒトに強い会社なのだと感じます。
飲食業にとって、ヒトは、最も重要な経営資源ではないかと私は思いますが、御社の成功のカギは、ヒトに強いことにあるのですね。
森田社長:そうですね。
僕は、まず、ヒトが楽しく働ける環境を作ることが、一番大事だと思っています。勿論、楽しいだけでは駄目で、ウチの場合、意識して社員については、自分の店を持ちたいというヒトを採用し、アルバイトから社員への移行もしています。ヒトが足りないから、場当たり的に、求人でとるということをしていません。
自立できるヒトを社員でとっています。
そういうヒトが集まり、チームを組み、そして、自分の夢に向かって歩いていく中で、楽しく、よいチームを作っていくことで、会社の業績があがっていくと思います。
松本:飲食業は、長時間労働で、調理やサービスという「毎日同じことの地道な繰り返し」の中で、小さい成功を積み上げ続ける産業です。その意味で、ブラックな産業と言われているわけですが、志を持っているヒトにとっては、ブラックではないはずですね。成功の過程の中の努力ですから。その意味で、本当は、飲食業は、「大変だけど、夢見ることができる産業」ですよね。
東京と沖縄の「交換留学」!?
松本:社員のモチベーションの継続という意味で、御社の「尖った」特徴はありますか?
森田社長:例えば、ウチでは、社員の福利厚生で、東京と沖縄の「交換留学」があるんです。
松本:「交換留学」!?
森田社長:はい。東京の社員は、沖縄へ。沖縄の社員は、東京へ。会社が双方に経費で、「インターンシップ」的に、社員の行き来をさせるわけです。
松本:それは、東京と沖縄という、エリアに店舗を持つ強みですね。東京の社員は、沖縄へ行きたいし、沖縄の社員は東京へ行きたいものね!
モチベーションもあがるでしょう。自社の店舗ごとの、シナジー効果を、人事にも活用しているわけですね。
アフターコロナを睨んだ戦略
松本:さて、このインタビューをさせていただいているのは、令和2年2月。つまり、新型コロナ禍における第三波の、緊急事態宣言の最中です。
飲食業にとっては、史上最悪の時期ですし、おそらく、ここから、飲食業の大倒産が押し寄せるだろうと感じます。
御社は、経営陣の先見性と努力で、流動資産の資金力も豊富に蓄えられており、緊急事態宣言の休業中でも、先を睨んで、社員教育や、事態に対応するデリバリー事業化も着々と戦略的に進めておられますね。
飲食業の経営者というのは、戦略的な方というのが少なく、場当たり的・刹那的・短期的・視野狭窄型の方が多く、そのため、参入率と廃業率が最も多い産業です。
そんな業界の中にあって、御社は、着々と戦略的視点に立った歩みを続けておられるようにお見受けします。
森田社長:ありがとうございます。うちも、潰れないようにしないといけないので、必死です(笑)。ただ、この厳しい時期は、逆をかえすと、激しい競合の状態が緩和することを意味します。ご指摘の通り、これから、飲食業は、大きく撤退が進むでしょう。
松本:そう。生き残った者、勝ち、ですよね。
森田社長:おそらく、新型コロナ禍を通り抜けた後、マーケットは、大きく変わると思います。今は、デリバリーを導入することで、売上を維持していますが、消費者は単に飲食に「食べ物を食べる」だけを期待しているわけではありませんから、揺れ戻しも起こります。
安全に食を提供するというデリバリーなどの事業と、お客様の場を演出し、喜びを創出し、触れ合いを楽しませるお客様を楽しませる事業との、バランスをとっていくことが、重要な戦略を考えるカギになるだろうと思います。
例えば、デリバリーでも、お客様に感動を与えることは出来ると思っています。
弊社では、第一波の緊急事態宣言明けの再開直後に、「一日100個の焼肉弁当の無料提供」という、キャンペーンをSNS発信で、打ちました。
松本:え! 一日100個の無料提供ですか?
それは、また、思いきったキャンペーンですね。
森田社長:とにかく、沈んだ世の中に、元気になって貰いたいという想いを、そういう形にして発信したのです。
たくさんのお客様から「ありがとう」をいただきました。
中には、お届けした時に、たくさんのお土産を準備しておいていただいたお客様もおられます。
そして、お弁当を食べていただいたお客様が、たくさん、その後、店にご来店いただきました。
松本:再起への大きな起爆剤になるとともに、従業員の皆さんにとっても、会社が行う「世の中を元気にする試み」は、大切な、モチベーションと自信につながったでしょうね。
森田社長:飲食事業を開業した頃から、「100店舗をやりたい」という夢を持っていました。
コロナ禍でも、スシローさんや、ロードサイドのラーメン店などでも業績を伸ばしている企業もあります。
どんな状況になっても、社員とともに力をあわせ、みんなで知恵を出し合い、乗り切っていきながら、成長を続けたいですね。
松本:是非、これからも、頑張ってください。
本日は、貴重なお時間を、ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
~経営コンサルタントの視点~
急成長を続けながら、楽しい職場環境を作る、という「明るさ」が、最高の人事戦略を生み出す
コロナの第一波が明けた瞬間、「一日100個の焼肉弁当を、無料で、デリバリーで配布しました」。
元気になって貰えたらと思いまして、と、森田社長は、笑顔で僕に語る。
簡単に、出来ることではない。
突然起きた誰も予想しなかった事態に、休業を余儀なくされ、社員に給与を払い続けたその直後に、だ。経営者ならば、資金が枯渇し、利益を最も欲しい時期だったはずだ。そこで、焼肉弁当を、連日、100個も無料配布を決め、そしてそれを続けたのだ。
たくさんのヒトに元気を配り、感謝を受け、ファンを作ったことだろう。そこから、「ありがとうを貰う」ことから、再起を図る、という明るさが、森田社長をはじめとする、アットジーセンス社の経営の「持ち味」だろう。
そして、その明るさが、社員にも伝播し、社員が明るくなり、そしてそれが、お客様をも元気にし、売上と利益になって帰ってくる。これが、アットジーセンス社の成長の原動力になったことは間違いない。
飲食事業は、食物を調理して、配達する事業ではない。お客様の場を演出し、喜びを創出し、触れ合いを楽しませるのが、飲食事業の付加価値であり、そこにお客様は料金を払うのだ。
デリバリーという手段を使った場合、そこに、場を演出し、喜びを創出し、触れ合いを楽しませることは、店舗の外食以上に工夫が必要だ。それを考えず、単に、調理して、配送するだけであれば、到底、飲食事業は、多くの事業従事者を擁していくだけの産業ではあり続けられないだろう。
日本社会では、今後、人口減と、人口に占める年齢層の高齢化が容赦なく進む。その中で、飲食業のマーケットが漸減していくことは、既に目に見えている。毎日、厨房で、料理を作り続けていれば、お客様が来店し続けるといった、発想が継続しない。新型コロナ禍は、その事態を、大幅に、前倒しにして、飲食業に対して、生き残れるかどうかの問を突き付けたのだと、僕は思っている。
志ある従業員とともに、楽しい職場を作り、その雰囲気をお客様に広げていく工夫。このような戦術の積み上げを、鳥瞰して描くことが、まさに、飲食業らしい戦略だと、僕は感じた。
COMPANY INFORMATION
株式会社アットジーセンスエンターテインメント
〒150-0045
東京都渋谷区神泉町12-7 FOUR・S 3F
https://www.atg-sense.jp
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