セグメンテーションやターゲティングなどのマーケティング手法には限界が来ることを知ろう

売れることを目指す、セグメンテーションとターゲティング

企業のマーケティングの基本手法である、セグメンテーションと、ターゲティング

マーケティングの世界では、「競争戦略を意識し、競争優位性を確立するためには、セグメンテーションと、ターゲティングに基づくマーケティングが不可欠である」と言われています。

セグメンテーション

競合に遅れて参入したフォロワー(二番手以降)の新規参入企業が、顕在及び潜在市場のセグメントを絞り込み、セグメントされた市場範囲をターゲットとする戦略

そして、セグメンテーションによって、セグメントされた市場を見つけ出したフォロワーは、更に具体的なマーケティングで、ターゲティングに基づく行動を行うことが求められます。

ターゲティング

セグメンテーションを行ったうえで、そのセグメントに集中的に経営資源を投下し、限定されたニッチな領域でトップランナーに対する優位性を構築する戦略

セグメンテーションやターゲティングの事例

以上のセグメンテーションとターゲティングを、具体的には、どのように適用して企業は売り上げに結び付けるのでしょうか?

マーケティングの現場の具体的な事例でみてみましょう。

事例

私たちは、東京都内の中堅不動産業者で、賃貸物件の仲介の売り上げをあげることを目的にマーケティング活動を行っているとします。

東京都内の不動産物件は、そのサイズ・価格帯・仕様のレベルが多様で、その総物件数は、非常に多いでしょう。競合の不動産仲介業者も多く、どこの業者も、同様の物件を扱っています。そうなると、集客力とブランド力が高い、大手上場の不動産業者や、有力な不動産テックサイトが、圧倒的に借主をつけやすくなってしまいます。

そこで、我々は、自社の営業展開に最も強い文京区に物件を絞り込みます。そして、文京区には、両親の所得が高い有名な大学の3年生以上(成人)が集まることから、顧客層を大学3年生以上の学生(単身者)とし、物件の内容を、大学卒業後に就職をしても、結婚するまで住んでいられる物件に絞って、取り扱うことにしました。

  • 1Kでなく、2DKから2LDKまでの単身者向け物件
  • インターネット接続環境が良好
  • 静かで、勉強や研究・テレワークに向く物件
  • 女性の一人暮らしでも安心

このような物件だけを、営業マンが実際に足を運んで確認し、大学生が探しやすい店舗や、専用のネットで、営業を行うことにし、大きな営業成果をあげることに成功しました。

上の事例では、まず、不動産の物件を文京区にセグメントし、顧客ターゲットを、文京区にある有名大学の3年生以上の学生とし、彼らが卒業後も住み続けられる物件情報に絞り込んでいます。

そして、ターゲティングした顧客が選択するであろう物件条件を抽出し、取り扱う物件を、更にセグメントしています。

こうしてターゲティングとセグメンテーションを行った市場と物件について、マーケティングミックスである4P戦略(Product:製品戦略、Price:価格戦略、Promotion:プロモーション戦略、Place:販路戦略)を練り、実行に移します。

セグメントと、ターゲティングの繰り返しにより、ターゲティングされた顧客が選択する志向の強い商品だけにセグメントし、それを提案することで、成約率と成約数をあげたわけです。

このようなセグメントとターゲティングが、マーケティングの伝統的な手法といえます。

セグメンテーションやターゲティングをし続けると、商品は売れなくなる!

このようなセグメンテーションとターゲティングを行い、4P戦略でマーケティングミックスを再構築するマーケティング手法は、伝統的な方法ですが、この方法には限界があります。

ある段階から、この方法では売上や、成約率があがらなくなるのです。

それは何故でしょうか?

理由は、2つあります。

  1. これ以上のセグメンテーションができなくなる段階が来る
  2. 商品そのものが時代の流れにあわなくなる事態が起きる

ひとつずつ、見ていきましょう。

これ以上のセグメンテーションができなくなる段階が来る

セグメンテーションの手法は、短期的には、いかなる新規参入企業でも、より大きな資本の企業に対して、競争優位性を構築することができます。そして、そのセグメントされたマーケットに限定してマーケティングミックスを構築すれば、より広域なターゲットを狙わなければならない強い競合や、新たな参入者に対して、参入障壁を構築することができます。

しかし、長期的に、セグメンテーションを繰り返すと、市場の断片化を招き、セグメントとターゲットは、更に小規模なニッチとなって、最終的には、ワン・トゥ・ワンのマーケティングまで縮小してしまいます。

市場がこれ以上のセグメンテーションを許さない状態に至ってしまうと、それぞれが飽和状態を引き起こし、新製品や新ブランドの成功確率は大きく低下します。

つまり、セグメンテーションとターゲティングは、短期的な競合優位性を構築して、参入障壁を構築することには役立つ戦略ですが、長期的な繰り返しには、限界をきたす戦略であると言えます。

商品そのものが時代の流れにあわなくなる事態が起きる

すべての商品に、そのような状態が来るとは限らないのですが、一定の商品には、それが時代にあわなくなる事態が発生する場合があります。

自動車が普及する時代に、人力車のセグメントとターゲティングは、販売促進効果はありません。高齢者専用人力車を開発し、若者向けのカラーの人力車を開発しても、自動車の普及する時代には、販売促進の効果はありません。

人力車は、極端にわかりやすい事例ですが、実際に時代の流れにあわなくなり、退場する商品は、時代の流れの加速ともに、どんどん増えているのが現状です。

マーケティングを乗り越えるためのイノベーション発想

このように、マーケティングは、売り上げの向上に短期的には効果を発揮しますが、長期的には限界が来ます。

このマーケティングの限界は、イノベーションによって乗り越えなければなりません。

マーケティングは、あくまでも、マーケティングミックスの4Pの範囲で行いますが、イノベーションは、経営理念や事業ドメインの範囲内で、事業そのもののポートフォーリオを革新的に見直す行動です。

既存市場の外部から見直す行動です。

では、次に具体的なイノベーションの事例をみていきましょう。

人力車のイノベーション

例えば、先にあげた人力車に関して言いますと、イノベーションは、自動車に対抗する乗り物としての人力車を売る発想を捨て、消滅してゆく人力車を美術品として把握しなおし、新たな美術市場の中に、販売を見出すというような方法がイノベーションの発想です。

冷蔵庫のイノベーション

P・ドラッカーは、イノベーションの事例として、その古典的名著「現代の経営」の中で、「冷蔵庫を、食品を冷蔵する機能としての冷蔵庫から、食品を凍結から防止する適温の権利機能として再定義して、エスキモーに売る」という事例を紹介しています。

パズルのイノベーション

URVグローバルグループで経営支援事業を展開する、株式会社URVプランニングサポーターズの経営顧問企業である、シャフト株式会社は、顧客の撮影した写真を使ったオリジナルジグソーパズルをワン・トゥ・ワンで製造する、オリジナルジグソーパズルのトップメーカーさんです。

この会社は弊社とともに、パズルという遊戯を、お客様の写真を使ったギフト商材にイノベーションを行い、パズルとは別のギフト市場を開拓して成功された企業様です。このような企業様は、遊戯具のマーケティングではなく、別の機能と市場へのイノベーションで成功されたと評価できます。

イノベーションを支える思考法は、ラテラル(水平)思考法

このようなイノベーションに関わる思考方法は、従来のマーケティングの発想法と異なります。

ポジショニングを狭め、ターゲティングを絞ってゆく思考に対し、マーケットや顧客行動を俯瞰して、水平的に発想を移行させるため、イノベーションは、しばしばラテラル思考と呼ばれます。

商品を根本的に、いまの使われ方から異なった視点でみてみるというのが、イノベーションの発想法です。

マーケティングとイノベーションは、そのどちらかを採用し続けるものではありません。

その双方を駆使して、販売を考え続けることで、短期的にも長期的にも、製品ライフサイクルを大きく伸ばすことが可能になるのです。

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