長年に亘り、筆者は、日本の中小企業の経営者を支援して、その企業の販売促進に取り組む中で、感じてきたことがあります。
それは、日本の大企業に比較して、中小企業が圧倒的にマーケティングで弱いのは、プロモーション戦略であるということです。
弱い、というよりは、殆ど、中小企業ではプロモーションが行われていない(考えられてもいない)というのが、正しい実情と言えます。
それは、21世紀になり、Webマーケティングという、中小企業が大企業と並ぶことが可能になった、マーケティング手法を手にいれた現代においても、変わりません。
このコラムでは、マーケティング手法から、筆者が実際に経験した、この「プロモーション業界のカオス」に関する実話をお話していきましょう。
目次
マーケティングの4Pとは?
マーケティングは、4Pの戦略によって分解されて検討されます。
4Pというのは、
- 商品戦略(Product)
- 価格戦略(Price)
- 販路戦略(Place)
- そして、
プロモーション戦略(Promotion)
の頭文字をとった、言葉です。
マーケティングでは、まず、
- 顧客のペルソナを定義し(Whom?)
- そのペルソナのソリューションに適合した商品開発を行い(What?)
- それを、どのような販路で流通させて
- どのような場所で(Where?)
- いくらで販売するか(How much?)
- そしてその商品をどのように顧客に見せて、対競合で魅力的に演出をするか(How?)
を、順番に検討を進めます。
こうして、マーケティング・ミクスの全体像が姿を現し、そのマーケティング・ミクスに従ったマーケティング計画が立案され、その計画に従ったマーケティング活動が動きます。
この全体を、マーケティングと呼ぶわけです。
さて、先ほど、僕は、中小企業ではプロモーションが行われていない(考えられてもいない)と書かせていただきました。
つまり、中小企業は、顧客のペルソナの定義と、それに見合った商品開発が適切に行われ、販路や売り場の開発や、価格競争力においては、決して大企業に劣っているわけではありません。
むしろ、大企業にはない、優れた商品やサービスを持っている企業がたくさんあると僕は、いつも感じています。
しかしながら、その商品をどのように顧客に見せて、対競合で魅力的に演出をするか(How?)という部分(これが、プロモーションです)になると、そこだけが、圧倒的に弱いのです。
中小企業の経営者の中には、ここが、アタマから欠落している人が非常に多いのです。
僕は、そのため、長年、日本の中小企業に、このプロモーションという手を提供すれば、圧倒的に、販売力が強化され、売上もあがるのではないかと考え、その提案を行ってきました。僕に従っていただいた経営者の企業の、売上を、大きく伸ばすことに僕は成功してきました。
では、何故、中小企業が、このプロモーションという活動だけが、弱くなってしまったのでしょうか?
それは、実は、中小企業の責任ではないと僕は思っています。
むしろ、このプロモーションを担う業界が、圧倒的に不透明で、不明瞭で、わけのわからない業界であるから、だと、僕は考えています。
プロモーション業界にいる人間が、圧倒的に不透明で、不明瞭で、わけのわからないサービスを行っても、購買を続ける大企業に慣れ切って、コスト意識の高い中小企業に、プロモーションサービスを行ってこなかったから、というのが、僕が至った答えです。
そこで、次に、これまで僕が実際に経験した、この「プロモーション業界のカオス」に関する実話をお話していきましょう。
実話「タイ バンコクでのプロモーションの編
~日本の地方自治体で、皆さんの税金が、こんな風に濫用されているという話~」
その時、僕は、タイの首都バンコクの、ある商業施設で、日本の商品をプロモーションする、ある日系企業(F社)の社長から、プレゼンを受けていました。
彼がそのプロモーション設備に投資を行い、店舗の前のモールの広場に、独自のステージと、4面マルチビジョンを備えたコーナーを創ったのです。
僕は、彼の誘いに応じて、弊社の現地法人があるシンガポールからの帰路、タイのバンコクに立ち寄り、彼に案内されて、その設備を観に行きました。
彼は、「他にも、日本の大手広告代理店に同じプランを同じ価格で渡しています」と、正直に僕に言いながら、僕に、その設備と、現地のモデルを途用したプロモーションプランを提案し、その価格として、1週間のパックプランで、2000万円の価格を提示してきました。
僕は、そのプランを結構気に入りました。
これは、日本の地方自治体のプロモーションには、最適だと感じたのです。
そこで、僕は、そのF社のプランをベースに、現地での広告活動と、現地での当社の管理を組み合わせ、日本での当社の販売手数料を含め、3000万円の独自のプランを企画しました。そして、日本で、僕がルートを持っていた、地方自治体の企業立地課に、このプランの売り込みを開始しました。
さて、今回の話は、K県の企業立地課の課長を通して、同県の企業の海外販路を担当する課の課長をご紹介いただき、このプランの提案をした時の事です。
その課長さんから、「これと、殆ど同じプランを、大手広告代理店のD社さんから、提案がありました。」とお聞きしました。
そのプランと価格をこの課長さんに、内緒で見せていただきました。
これをみて、僕はびっくりしてしまいました。
僕が、タイ現地から提案を受けたものと全く同じプラン(つまり、弊社では、そこに、現地での広告活動や、現地での当社の管理業務を付加していたのですが、それがまったくない、現地からの提案そのままの状態)で、販売価格が、3億円だったのです。
タイの現地では、2000万円でD社に提案したはずです。
これが、そのままの形で、3億円の値がついて、K県に提案されていたわけです。
粗利益率93%!
いやはや、凄い商売するな、D社は・・・。
こう僕は、感じました。
そして、当然、これは、2000万円のプランに独自の付加価値をいれて3000万円で提案した弊社と、現地のまんま、を3億円でただ出しただけのD社であれば、弊社が勝てるに違いない、と、僕は読み、提案に力を入れました。
ところが、結果は、僕の予想が裏切られました。
K県では、3億円で、D社が受注してしまったのです!
これには、僕はびっくりしました。
後日、僕を紹介してくれた、K県の企業立地課の課長と、その県庁所在地の地元で二人で飲んだ際、僕は、彼に何故、弊社が負けたのかを、聞きました。
彼の答えは、こうだったのです。
「価格なんて、全く関係ない、出来レースなんだよ。
議員さんが、こういうプロモーションは、全部、D社と決めているから、D社と競合したら、どこの会社も受注できないのよ、うちの県では。
松本さんの会社が、どんなに安くても、D社と競合したら勝てないさ。
うちは、保守王国でしょ。
その保守政党の県連に対する、政治献金が莫大だからね。」
僕は、彼に、酒の勢いに任せて、仲のよいこの課長さんに喰ってかかりました。
「だって、それって、県民の税金でしょ!
同じ企画で、10倍ものカネを使って、それが、政党に政治献金で戻ってくるっていう仕組みじゃないですか!
税金を、そんなことに使っていいんですか!」
この課長は、笑って、僕に言った。
「違うんだよ。
県民の税金じゃない。
あの原資は、松本さんたち、東京の企業が払っている、法人地方税だよ。
法人地方税は、主に東京の企業が納税して、それを国が地方にばらまいている税金ね。
国会の議員さんたちが、地盤を維持する上で、自分の地元に、ばらまくための税金を、松本さんたち、東京の企業が、法人地方税という、わけわからない国税で支払っているでしょ。
あれが、原資なんだよね。
海外への売り込みは、こうやって、地方にばらまかれている税金を使っているから、別に、地方では腹が痛まないんですよ。
ついでに、言っておくとね。
もし、松本さんの会社に発注したら、松本さんが、うちの県まで、何度も通って、業務を繋いでくれるでしょ。
D社では、あんなに利益をとっているのに、一切、ウチの県みたいな田舎には誰も打ち合わせになんか、来ない。
僕ら役人が、東京のD社の本社に呼びつけられるのですよ。
どっちが客なんだか、わかんないでしょ。
つまり、国内出張すらしないで、海外のプロモーション企業に丸投げして、利益は、全部、丸儲けなんですよ。
そういう商売を、長年やってきて、あれほど、巨大になったんだよ、あそこはね。」
僕は、弊社が受注できなかったことに対することよりも、この広告代理店という、業界の不透明な価格や営業姿勢に怒りを覚え、あきれかえってしまったのです。
広告業界の頂点に君臨するD社。
そして、このD社の下に、ぶら下がっている、おこぼれにあずかる、中小の広告代理店企業。
こんな「濡れ手に粟」の商売の構造が、プロモーションを担う業界を、圧倒的に不透明で、不明瞭で、わけのわからない業界にしているのだと、僕は、この時、気づいたわけです。
実話「とんでもない映像撮影編集の価格編
~果たして、適正な価格というものがあるのか?~」
あるとき、T社という企業のマーティング担当の方から、僕は次のような相談を受けました。
「弊社で、広告用の映像を作成しなければならないということになりました。弊社でははじめてのことだったので、大手企業のH社に、映像制作の目的や内容をお伝えし、担当の方から、お見積りをいただきました。その金額が、500万円を超えていたのです。
担当者の自分としてはかなり想定を超えた金額でしたし、とても、弊社の予算を超えていました。
H社は、弊社の副社長の大学時代の知り合いの方が、いらっしゃるということで、ご縁があったのです。そこで、副社長からH社に連絡し、弊社の予算を大きく超えているので・・というお話をして、丁重にお断りをしてもらうように、副社長に依頼をしたのです。」
「そうしましたら、副社長が先方に連絡をした翌日に、H社の担当の方から自分に連絡が来ました。そして、出血大サービスをするということで、何と200万円の見積もりが送られてきたのです。」
「松本さん。私、映像制作というサービスの世界の企業様とのお付き合いは、はじめてだったのですが、正直、かなり不信感を抱きました。何故、副社長が話をしただけで全く同じ仕事の見積もりが、500万円から突然、200万円になるのですか?
それって、価格が、全く信用できないってことじゃないですか?
ウチが、何も言わずに、500万円でお願いしていたら、ウチは単に、ぼったくられていた・・・ということではないですか?」
僕は、そのご担当の方のお話に、こう応えました。
「あの業界は、価格があってないような世界です。利益率なんて全くのでたらめで、基準もありません。とれるところからとるっていうだけの世界です。それが染みついていて、当然だと思っている企業が多いのです。
もちろん、撮影や編集の人件費、そして管理コストなど、基本的な原価はあるのですが、それを積算して、見積もりを出す世界ではありません。」
その後、彼からそのH社と同様の条件のご連絡があり、弊社でお見積りを出すことになりました。
率直に言って、どうもその話の流れから、僕はあまり気の進む話ではなかったのですが(つまり、これは僕の長年の勘で、その会社の副社長さんがH社と癒着があり、こちらは当て馬にされる予感がしたのです)、その担当者の方が少々気の毒だったので、あえて受注できる見込みは度外視して、弊社なりの見積もりを出したのです。
弊社の呈示した見積もりは、70万円でした。
これは、決して安く見積もったわけではなく、弊社では、適正な価格基準と利益率を算出して出したものです。
おそらく、H社も弊社と同様の下請けの制作会社に見積もりを出させ、これに利益を乗せたのだと僕は推測します。おそらく、70万円程度で下請けに制作を丸投げする仕事を、500万円で見積もりを出したのでしょう。だからこそ、突然200万円まで平気で見積もりを下げることができるのでしょう。
弊社が70万円で見積もりを出した後、そのご担当者からの連絡が、ぷっつりと来なくなりました。
そして、随分時間がたってから、「H社が金額を下げてきたので、H社にお願いすることになりました。申し訳ありません。」という、メールが一本きました。
明らかにこの会社では、副社長さんがH社と癒着をしており、彼がとった弊社の見積もりは握り潰されたのだろうと、僕は推測しています。
それ以来、ぷっつりと彼からの連絡は途絶えました。つまり彼は、サラリーマンとして、H社と利権のある副社長の領域に土足で立ち入ったことに気づいて、自分の保身のため、沈黙してH社に発注をしたのでしょう。
T社は非上場の中堅企業ですから、別に取締役が、企業と癒着をして発注を、癒着先にだそうが、それは自由なわけです(上場企業であれば、株主に対する背信行為になりますから、大変なことになるでしょうが)。
何はともあれ、僕が言いたいことは、こういうことです。
プロモーション関連の業界は、限りなく不透明で、不明瞭で、わけのわからない業界であるということ。
このカオスな世界に対して、僕は、この業界の不明瞭な部分を破壊しない限り、中小企業が安心してプロモーションに投資をすることはできないと思っています。
この想いが、URVグローバルグループのマーケティング支援事業の出発点になりました。
続く・・・
次回のコラム
「マーケティングで成果をあげる、ブランディングのアプローチ」はこちら
多くの中小企業は、プロモーションを「広告」と勘違いしています。広告は勿論プロモーションの一手段ではありますが、プロモーション=広告ではありません。広告の前に、プロモーション戦略として「行わなければならないこと」があります。
詳しくはこちら
本稿の著者
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO
株式会社URVテクノインテリジェンス 代表取締役社長
モデル芸能事務所 DRISAKU エグゼクティブプロデューサー
松本 尚典
国内外の外資系コンサルティング会社にて、経営コンサルタントとして、長年に渡り、活躍。大手企業の役員の歴任をえて、2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。
同社の100%子会社として、2020年に、赤坂に本社をおく、株式会社URVテクノインテリジェンスを設立。
多くの中小企業の成長とマーケティングを、経営コンサルタントとして担ってきた経験を基礎に、企業のマーケティング戦略と、モデル芸能事務所を融合した事業を立ち上げ、その構想のもとに、DRISAKUサイトを主催する。