記事の筆者
松本 尚典
Yoshinori Matsumoto
- URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
- 株式会社URVテクノインテリジェンス 代表取締役社長
- モデル芸能事務所DRISAKU®︎ エグゼクティブプロデューサー
「推し」を分析攻略することで、「売れる」時代へ
「SNSで成功できる」は、どんどん難易度が高くなっている
モデルやアイドルを目指すヒトが、自分の魅力をSNSを通して発信できる時代になりました。一方で、それはGAFA系のSNS発信の激増に繋がっており、その勢いは、Web上のページの増殖をはるかに上回っています。
ビジネスにおけるWeb上の検索エンジン対策の難易度が、日々アップしているのを張るかに超えるスピードで、SNSによる発信で注目を浴びるのが困難な時代になってきました。
「いいね」を獲得し、登録を獲得したいがために、暴露系や過激なフェイクニュースの投稿をしなければ、注目を得られなくなってきているのは、SNSのコンテンツの競争が、猛烈な勢いで増殖しているためです。
リアルな仕事を積むほうが、成功できる時代に逆転している
TVがマスメディアに独占されていたことに対し、SNSによってメディアを通さずにインフルエンサーやYouTuberたちが、個人で成功を目指せる時代が来たと、大いに夢を語っていたのは「つい最近の過去」の話になり、今では逆にSNSでのインフルエンサーになり、注目を浴び続けることが、メディアのアイドル以上に難しくなりました。
おそらく、この傾向は今後もますます強まると僕は思っています。
そんな中、むしろ、いま、逆にSNSで注目をあび続けるよりも、リアルな広告モデルや舞台などの仕事を積み上げて、ファンを増やし、仕事を増やす方法のほうが、成功する可能性が非常に高い時代に逆転してきたように僕は感じています。
これが、僕がモデル芸能事務所DRISAKU®︎を造った理由です。
このようなリアルな活動で、成功を目指す場合、いたずらに動いても成果がでるわけではありません。
一方で、広告モデルを採用するマーケッターの方も、SNSやモデルサイトで広告モデルを採用しても、そのモデルが「成長株」でなければ、広告の注目も生まれません。マーケッター側にも、成長株のモデルをどう見つけ出すかという観点がないと、広告のチカラも生まれません。
ポイントは、「推し」行動の分析と実践
そのカギになるポイントが、現代のアイドルを生み出す力になっている、「推し」行動の基本を踏まえた動きになっているかどうか、にあります。
このコンテンツでは、これから成功を目指すモデルやアイドルにとっても、そのモデルやアイドルを活用するマーケッターにとっても重要な、「推し」行動を分析し、その獲得を目指す活動の基本を発信したいと思います。
「萌え」から「推し」への変遷
アイドル、とりわけ女性アイドルを男性のファンが支援する行動は、2000年代に、大きく「萌え」から「推し」へと変化をしました。
女性のアイドルやモデルを目指す場合、または、女性アイドルやモデルを商品広告に利用する場合、ファン行動の「萌え」と「推し」の違いを理解しておく必要があります。
既に、完全にオワコン化している「萌え」をいまだに売りにしているアイドルやモデルも散見されますが、それではファンの支援を大きく獲得することはできません。
「萌え」のピークは、2005年
男性のオタクが時代の注目を集めたのは、2005年にドラマ化された「電車男」と言われています。
「萌え」は、男性が女性のアイドルや、秋葉系のメイドなどに向けた感情で、本当は性愛の関係に至りたいところが、ファン側の性格的な障壁から、性愛に至れず、距離をあけている女性に対する感情のことです。
女性のコスプレイヤーやメイドなど、2020年代に至っても消えたわけではありませんが、それは、あくまでも一部の「マニアック」な男性によって支持を受けているにとどまり、国民的な「萌え」への関心は、2005年をピ-クに急速にしぼんでしまいました。
その意味で、「萌え」は一時的な流行の域を出ずに、エンターテイメントの世界の主流から外れてしまいました。
なぜ、「萌え」に代わって、「推し」行動が主力になったのか?
この「萌え」の廃れと、「推し」への移行は、現代の日本人の若者(特に男性)の生活傾向と意識の変化が反映されています。
日本人男性の人生の成功過程は、ミレニアムを跨いで、大きく変化しました。
女性との関係で、20世紀の日本人男性は、
いい大学→いい会社→いい女性との交際→結婚→性愛→出産→育児→教育→子供の自立
という過程を典型的に辿ることが、成功への道と考えられてきました。
若い時に、複数の女性と交際し、その中からいい女性を選んで結婚をすれば、自由な生活は打ち切りとなり、性愛の対象は結婚相手だけとなって、その相手との関係から、子どもを含んだ家庭を作り、営むことが幸福と幸せのカタチ。
多くの日本人はステレオタイプのように、このように考えてきました。
世界同時多発テロという不穏な事件から幕を開けた21世紀の日本は、2004年に人口のピークアウトを迎えると、そこから、激流の滝のように、人口減少が加速しました。医療の高度な発展による高齢者の長寿化によって支えられていた人口が、それをはるかに上回る出産の減少に耐え切れなくなり、反転して、全人口が激減をはじめたのが、2004年という年です。
1990年代から陥った「失われた10年」は、いつしか「失われた20年」となり、ITバブルに沸くアメリカや、急成長を遂げる中国をしり目に、日本のチカラは、刻々と落ち続けました。
「果たして、こんな国で子どもを育てて、子どもは幸せになれるのか?」
思慮深い人ほど、この当然の疑問を抱くのは当然です。
20世紀の子供の教育の成功であった「いい大学→いい会社」というルートも、次第に信用できなくなりました。
日本人の、人生の成功への道筋が多様化したという表現は、この状態を取り繕う便法的表現であって、実際のところ、日本人の多くは、人生の成功への道筋が描けなくなり、その道筋を見失ったというのが本当の姿です。
多様化ではなく、各自が混迷をはじめた、というのが実情でしょう。
「萌え」が、いい大学→いい会社→いい女性との交際→結婚というルートから外れた男性による逃避の志向であったのに対し、「推し」は、混迷をはじめて成功への道筋が描けなくなった男性による「生きなおし」の志向です。
20世紀型成功からの逃避という「萌え」が廃れるのは、当然の流れであり、21世紀の混沌とした成功の道筋なき日本人にとって、エンターテイメントは、自分の「生きなおし」の姿を見出す役割を担うようになったのです。
AKB48が懸命に上を目指す姿に、「自分の生きなおし」を見て「推す」
この動きを敏感にとらえた秋元康さんによって、プロデュースされたAKB48は「推し」を活用した典型的な成功事例となりました。
チームのアイドルの総選挙を実施して、その得票数によって順位付けをするという仕組みを作りあげ、この総選挙を勝ち抜くアイドルを「推しメン」として応援することを、ビジネスに結び付けたのが、AKB48商法でした。
「推し」を応援するファンは、「萌え」のような社会からドロップアウトしたオタクによって構成された層を主体にしたものではなく、世紀のミレニアムを越境するミレニアム世代を中心に、混沌とした成功の道筋を見出せない日本人が、エンターテイメントに、自分の「生きなおし」の姿を見出して、「推し」を懸命に支援する活動が、大きな社会的な主流を作りあげたのです。
アイドルの「推し」は、キャバクラやホストへの「貢ぎ」とは異なる
よく、AKB48の商法を「キャバクラ」に例える方もおられます。
しかし、「推し」という行動は、客がキャバ嬢やホストに「貢ぐ」行動とは、まったく異質であると、僕は思います。
キャバ嬢やホストへの貢ぐ行動は、自分がキャバ嬢やホストに注目してほしい、という性愛感情です。キャバ嬢やホストの生き方に、「自分にない生きなおし」を見出しては、まったくいません。むしろ、キャバクラやホストにのめりこむ破滅的な自分をわかっているものの、そこにはまってしまうギャンブル依存症にも近い、病的な感覚です。
「推し」がバズるアイドルの条件
モデルや、YouTuber、ライバーや、アイドルを目指す方にとって、いま、「推し」がついてくれるようになる条件は何かという点が気になるところだと思います。
僕自身、モデル芸能事務所を経営する経営者として、どんな条件が揃った人が「推される」のかを、長年、観察してきました。
「推し」てくれる方を積み上げて行ける人に共通する条件は、推すヒトに、「生きなおし」の活力を与えてくれる「夢を持つ」ということです。
かわいい女の子やイケメン君は、いまや、掃いて捨てるほどいるといっても過言ではありません。
スタイルがよいモデル志望の女の子もいくらでもいます。このような人が、自分は可愛い、またはイケメンだからといっても、推してくれる方は、積みあがらず、鳴かず飛ばずで終わります。
長期的に、多くの推しが積みあがるモデルやアイドルには、自分が追えなかった夢を懸命に追っている姿をみて、応援をしたくなるという共通点があります。
そのため、モデル芸能事務所DRISAKU®︎では、自分の生き方を持って、しっかりと夢を追い続け、毎日毎日一生懸命生きているタイプの方を採用するという方針で、モデルや芸能人のタマゴを探しているのです。
アイドルやモデルを目指すヒトは、周辺が共感して「推し」てくれる自分の夢を発信し、そして、その夢を実現するための日々の努力を発信してみましょう。
そして、マーケッターは、そのようなぶれない夢をもち、それを実現する活動を毎日、しっかり発信しているようなモデルやアイドルを探して先行投資をしてみてください。
現代の日本人は、自分にできない生きなおしの感動を求めており、自分の代わりに生きなおしをぶれずに実践している人を、強力に「推す」という行動をします。
この点を、マーケティングの視点に採り入れてみることを、僕はお勧めしたいと思います。
続く