記事の筆者
松本 尚典
Yoshinori Matsumoto
- URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
- 株式会社URVテクノインテリジェンス 代表取締役社長
- モデル芸能事務所DRISAKU®︎ エグゼクティブプロデューサー
過酷な撮影現場と、ロケ弁
広告制作に伴う撮影には、DRISAKUモデルを使ったモデル撮影のほか、お客様の商品撮影など多様な撮影があります。モデル撮影の場合、モデルというヒトを撮影する関係上、あまりに長時間の撮影では、モデルの表情が疲れて曇ってしまうため、株式会社URVテクノインテリジェンスでは撮影時間は、長くて3時間程度に抑えるようにしています。
しかし、商品の撮影となりますと、撮影にコストがかかる関係上、お客様の商品を、相当な量、いっぺんに撮影をすることになります。撮影計画を綿密にたて、計画にしたがって、撮影を指揮して進めることになり、撮影した写真を、クライアントに確認をしながら、カメラマンが必要以上に凝り始めて、計画以上に時間を費やすことを牽制しながら、撮影を進めるのが、プロデューサーの重要な役割になります。
ちなみに、商品撮影の中で、僕の経験上、最も過酷な撮影が、飲食の調理撮影。
料理の撮影は、温かさや冷たさを写真や映像という二次元の世界で、見る人に伝えなければならず、作り立ての料理に演出をくわえて撮影を進めていかなければなりません。
料理人の方にキッチンスタジオに入っていただき、対面のキッチンで、撮影計画に従って料理を作っていただきながら、それができたと同時に、もう一方のスタジオで撮影に入ります。
厨房キッチンでは、戦争のような時間に追われた調理が展開され、一方で、スタジオキッチンでは、優雅で、素敵な料理の盛り付けや装飾が行われ、視聴者の方が、思わず食べたくなるような写真や映像が撮影されていきます。この演出は、カメラマンさんだけでなく、専門のフードコーディネーターさんをいれて行うこともあります。
その演出が上手くいかなければ、プロデューサーのOKがでず、撮影は。先に進みません。
スケジュールと料理や演出の、時間との闘いで、戦争のような現場となります。
さて、こんな殺伐とした撮影の現場での、唯一の楽しみが、ロケ弁ということになります。
クライアントの担当者の方や、モデルさん、カメラマン、そして調理や装飾を担当するスタッフさんたちが、ほっと一息ついて、全員でお休みをとるのが、ロケ弁の時間です。
撮影が過酷で、長時間に及ぶ現場で、コンビニ弁当のようなロケ弁で出てきたら、もう、やる気がなくなってしまうと僕は思っています。
そのようなこともあって、僕は、株式会社URVテクノインテリジェンスの撮影では、ロケ弁は、撮影の原価にいれず、社長である僕の会議費経費からご馳走することにしています。
けっこう、豪華なお弁当を注文してもらい、現場に差し入れるようにしています。
クライアントの担当の方から、モデルさんはもちろん、撮影に関わる裏方のスタッフまで全員に、一人当たり3000円くらいのお弁当を手配して、それを、休憩前にデリバリーしてもらい、撮影の合間に食べると、その後の撮影も頑張ろうという気にみんながなるのです。
美味しいロケ弁の時間は、クライアントの担当者様との、よきコミュニケーションの時間
撮影には、クライアントの御担当の方も、ほとんど同席されるわけです。クライアントのご担当者の方にも、ロケ弁を食べていただき、僕は、その時間を通して、クライアントのご担当者の方とのコミュニケーションを図っています。
それが、その後のお仕事の継続的は発注に繋がることも多く、営業的にも、有意義なのが、ロケ弁の時間です。
今、クライアントを夜にご招待をするというのは、若い方から、嫌われる場合もあります。夜のプライベートの時間を使ってまで、仕事の延長の話をしたくないというのが、若い世代の方の本音だったりします。
広告部門の担当の方は、概して、若い方が多いため、このような皆さんを、夜の席にお誘いするよりも、仕事の中の、ロケの合間のお弁当時間に、少しだけ贅沢なお弁当を食べながら、コミュニケーションを図るというのが、ちょうどよいことがけっこう、多いのです。
このようなことも、ロケ弁の効用の一つでしょう。
ロケ弁探しの担当者の特権
ちなみに、株式会社URVテクノインテリジェンスでは、案件と撮影の指揮を担当するプロデューサーの方に、僕は、スタジオのサーチなどとともに、ロケ弁の選定と配送手配も頼みます。
その時、必ず、「あなたの好きなお弁当にしていいよ」と言っておきます。
彼らは、それで、自分が現場で食べたいお弁当を探し、それで、参加するメンバーのことを考えて、各種のお弁当を必要数、選んで、僕に予算の打診をしてきます。
例えば、ダイエット中のモデルさんの場合には、ダイエットに差し支えないお弁当を。
僕には、ボリュームがあって、僕が好きそうなお肉系のがっつりなお弁当を。
と、いった感じで。
それでも、発注の仕事をする本人は、自分が一番食べたいお弁当を選ぶわけですから、非常に美味しいお弁当が届くことになり、現場の皆さんに、大いに喜ばれます。
ロケ弁の思い出
こんなロケ弁で、思い出に残る案件が、青梅の奥のエリアの撮影現場でのエピソードです。
この撮影は、非常に特殊で、お客様のビジネスのイメージを、囲炉裏や縁側がある、古きよき日本の姿のイメージの撮影をする、という課題でスタートした撮影でした。
担当プロデューサーが、苦労して探した、青梅の奥にある、古民家のスタジオを予約し、和服や浴衣姿が美しい、DRISAKUモデルの紫雲綾を起用した、撮影でした。
朝、僕は、車で最寄り駅に行き、そこから綾さんや担当プロデューサーを車に乗せて、スタジオとなる古民家に向かいました。
スタジオの近くには、心霊現象で有名なトンネルがあり、好奇心旺盛なプロシューサーが、そこを通過するときに語る、怪奇心霊現象の話を楽しみながら、築100年の古い農家だったスタジオに入ります。
ちなみに、この時の撮影は、囲炉裏に火をおこし、火を写しこみながら行う撮影で、事前にお客様が準備いただいたのが、薪(まき)でした。
ところが、カメラマンとの協議の結果、薪の燃焼は、非常に煙が多く、美しい撮影ができないということがわかりました。
小道具の準備ミスです。
スタジオの方に話をお聞きし、近くにあるホームセンターに、炭と、炭に火をおこす道具が売っているとの情報をえて、撮影の順序をいれかえて、囲炉裏の撮影を後に回し、僕とプロデューサーで、そのホームセンターまで、炭の買い出しに車で行きました。
「近くにあるホームセンター」と、スタジオの方に言われた言葉を真に受けて、クルマのナビで、そのホームセンターの場所を検索すると、なんと、走行距離が10km以上あるではないか?
都心部で車を走らせる癖がついている僕は、ここが東京都は名ばかりの、地方エリアなのだということを思い知ったわけです。片道30分かかる道を走り、ようやく、そのホームセンターに到着しました。
ところが、何分、プロデューサーも僕も、都会育ちで、炭で火を起こした経験なんて、ありません。炭はみつけましたが、それにどうやって火を起こすのか、まったくわからないわけです。
ホームセンターの店員さんに教えていただきながら、なんとか、炭とそれに火を起こす道具を仕入れて、帰路を急ぎます。
スタジオに帰り着いたときには、撮影時間を1時間半もロスしてしまっていました。
撮影担当のベテラン商業写真家の杉木カメラマンと、紫雲綾さんは、僕たちが買い出しに行っている間に、連携して、囲炉裏以外の撮影を前倒しにして、進めてくれていました。
囲炉裏に炭が入り、それが勢いよく燃え始めて、炭から燃える赤い炎が映った写真画像をみて、僕は、ほっと胸をなでおろしました。
そして、この時のお昼のロケ弁は、近隣からのデリバリーがなく、周辺の市から運んでもらった、かなり送料が高いお弁当でしがたが、ほっとした僕にとって、とても美味しいお弁当だったわけです。
撮影現場には、いくら準備しても避けられないアクシデントがつきものです。
こういった広告写真には写らない裏方の苦労を重ねるからこそ、唯一の楽しみである、ロケ弁が、心のよりどころとして、とても大切なんです。
続く